格闘技団体のONE Championship(ワン・チャンピオンシップ)は、世界でも珍しい独自の計量ルールを取り入れています。それが「ハイドレーションテスト」です。
- 「ハイドレーションテストって具体的に何をするの?通常の計量とどう違うのだろうか。」
- 「危険な水抜きって、選手にとってどれくらい危険なことなのだろうか。」
- 「最近の安保瑠輝也選手など、一部の選手が計量に失敗してしまうのはなぜだろうか。」

この記事は、このような疑問をすべて解決できるように、ONE Championshipが導入しているハイドレーションテストの目的、測定方法、そして最新の事例までを分かりやすく解説しています。
ハイドレーションテストとは何か その目的と背景

ハイドレーションテストとは、選手が試合に臨む前に、体内の水分状態が正常に保たれているかを確認するためのテストです。
ハイドレーションとは「水分補給」という意味で、このテストは主に「脱水状態になっていないか」をチェックするために行われます。
命を守るための厳格なルール
このテストが導入された最大の目的は、選手の健康と安全を守ることです。
以前、格闘技界では、試合の直前に体重を落とすために極端な「水抜き(脱水)」をする選手が多くいました。
これは、一時的に体重を大幅に減らす方法ですが、体調を崩すだけでなく、最悪の場合は命に関わる危険があります。
ONE Championshipは、選手の死亡事故を防ぐため、この危険な水抜きによる減量を禁止し、代わりにハイドレーションテストを導入しました。
これにより、選手は健康的な方法で体重を管理することが求められるようになったのです。
尿比重とは?ハイドレーションテストの具体的な測定方法
ハイドレーションテストでは、選手から尿サンプルを採取し、「尿比重(にょうひじゅう)」という値を測定します。
尿比重の基本的な考え方
尿比重とは、尿の濃さを表す数値です。
純粋な水の比重を1.000とした場合、尿には水分以外にもミネラルや老廃物などが含まれているため、比重は1.000よりも大きくなります。
• 脱水状態の場合:水分が不足しているため、尿が濃くなり(濃縮尿)、尿比重の数値は高くなります。
• 水分が十分な場合:水分が足りているため、尿が薄くなり、尿比重の数値は低くなります。
医師は、屈折率測定器という専用の機器を使ってこの数値を正確に測定します。
これは、光の屈折を利用して液体の濃度を測る仕組みです。
合格するための基準は尿比重1.025以下
ONE Championshipが定めているハイドレーションテストの合格基準は、尿比重1.0250以下と非常に厳格に決められています。
• 合格:尿比重が1.0250以下
• 不合格:尿比重が1.0250より高い
一般的な健康な成人の尿比重は1.015から1.025程度とされています。
つまり、ONEのテストでは、健康的な範囲内で水分が十分に足りている状態であることを証明しなければなりません。
もしテストに不合格となった場合、その選手は「過度に脱水している」と判断されます。
選手は再検査を受けることになりますが、規定時間内にハイドレーションテストと体重計量の両方をクリアできない場合、試合が中止になったり、契約体重を変更して試合を行うための交渉が行われたりします。
最新事例 安保瑠輝也選手が直面したハイドレーションの壁
2025年11月、初参戦の安保瑠輝也選手がこのハイドレーションテストと計量に苦戦したことは、大きな話題となりました。
安保選手は、フェザー級(約70.3kg)での試合を前に、規定時間内の最初の検査で、ハイドレーション(尿比重)が1.0292となり、規定の1.0250をクリアできませんでした。
さらに、体重も規定をわずかに超えていたため、両方の基準を同時に満たす必要に迫られました。
安保選手は、
1. 水を飲むと尿比重は下がるが、体重は増えてしまう。
2. 水を飲まずに体重を落とそうとすると、尿比重が下がらない。
という、ハイドレーションテスト特有のジレンマに直面しました。
これは、極端な水抜きを前提とした従来の減量方法では通用しないことを示しています。
最終的に、安保選手はハイドレーションはクリアしたものの、体重が当初の規定を約2.9kg超過した状態でのクリアとなり、対戦相手とのキャッチウェイト(契約体重の変更)交渉へと進むことになりました。
この事例は、トップレベルのプロ選手であっても、ONEのハイドレーションテストは非常にシビアであり、事前の周到な計画と準備が必要不可欠であることを示しています。
ハイドレーションテストが格闘技にもたらす大きな変化
ハイドレーションテストの導入は、格闘技界全体に大きな影響を与えています。
1. 選手の安全確保と長期的なキャリア形成
最も重要な変化は、選手の安全が大きく向上した点です。
命の危険を伴う過酷な減量から解放されることで、選手の健康が守られ、結果としてより長く、より高いパフォーマンスで競技を続けることができるようになります。
2. 公平な試合環境の実現
過度な水抜きをして、計量後に急激に体重を戻す行為は、対戦相手との間に実質的な体重差を生み出し、公平性を欠く原因となっていました。
ハイドレーションテストは、試合当日の体重差を減らす効果もあり、よりフェアな条件で試合が行われることにつながっているのです。
3. ファンが理解するべきこと
計量失敗のニュースを見たとき、「ただの体重超過」ではなく、「選手の安全を守るためのテストがクリアできなかった」という背景を理解することで、ONE Championshipの試合をさらに深く楽しむことができます。
この独自のルールは、選手の命を最優先するというONEの強い意志の表れだと言えるでしょう。



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